灯油が1カ月で2割高──チューリップ1本の光熱費は8円に。花屋が読む「冬の花」と燃料コストの話

灯油が1カ月で2割高──チューリップ1本の光熱費は8円に。花屋が読む「冬の花」と燃料コストの話

こんにちは、GORIです。

真冬の店先に、春の花であるチューリップやスイートピーが並ぶ。私たち花屋にとっては毎年の当たり前の光景ですが、その裏側には、産地のハウスを一晩中暖め続ける灯油の暖房機があります。その灯油が、この1カ月で2割も高くなった。日本経済新聞のマーケットニュースでそう報じられていて、冬の花の値段と供給に直結する話なので、じっくり読みました。

灯油はいま、どれくらい高くなっているのか

記事で報じられている数字を整理します。

  • 石油元売りや商社が石油製品を売買する国内のスポット(業者間転売)市場で、指標となる京浜地区の灯油価格は1リットル134円程度。8月末と比べて25%上がりました。急騰は9月に入って急に始まったそうです。
  • 同じ石油製品でも、ガソリンや軽油はほぼ横ばい。灯油だけが目立って上がっています。
  • 背景にあるのは中東情勢による世界的な石油製品の高騰です。アジアの指標となるシンガポールのケロシン(灯油)価格は10月9日時点で1バレル183ドルと、8月末比で22%高。「海外市況が高すぎて輸入品では採算が合わない」ため、冬に輸入で補ってきた供給が足りなくなる、という警戒が国内価格を押し上げています。
  • 在庫も薄い状態です。経済産業省の統計では、8月末の灯油在庫は前年同月より17%少なく、8月の生産量は前年同月比34%減でした。
  • 大手元売りは、系列の給油所に対して「前年同月の購入量の95%程度を出荷の上限とする」と9月半ばに通知。自社ブランドの販売店への供給制限は、めったにないことだそうです。
  • 寒い地域では家計への影響が先に出ています。北海道のコープさっぽろは10月1日から配達灯油を全道一律で1リットル15円値上げし、札幌地区では159円と過去最高を更新。年内に190円前後への値上げは避けられない、という見通しも紹介されていました。宮城県のみやぎ生協も、冬の配達灯油の暫定価格を18リットルあたり前年から396円引き上げて2646円にしています。

チューリップ1本の光熱費は約8円、前年より2円増

私がいちばん胸に刺さったのは、新潟県のチューリップ産地の話です。

新潟県は、チューリップの産出額が全国1位。春先までハウスを暖めるのに灯油の暖房機を使います。新潟市の花き生産者の方の試算では、チューリップ1本あたりにかかる光熱費は約8円で、前年より2円ほど上がる見込み。それでも販売価格への転嫁は難しく、燃料の高止まりが続けば生産規模の縮小も考えざるを得ない。周りには、今年チューリップの生産をやめた農家も出てきている、という話でした。

宮城県のイチゴ農園の話も載っていました。イチゴの光合成を促す二酸化炭素をつくるために灯油を大量に使う農園の社長さんは、農産物の価格は市況で決まり、生産者に価格決定権がない。コスト上昇のしわ寄せは生産者が担うことになりやすい、と話していました。

「1本2円」と聞くと小さく感じるかもしれません。でも、1万本つくれば2万円、10万本なら20万円。花は1本いくらの世界で、しかも相場で値段が決まります。自分でコストを乗せた値札を付けられない。これが花の生産現場の厳しさです。

なぜ花屋にとって他人事ではないのか

毎日花を仕入れる立場から、この話を少し掘り下げます。

  • 冬の花の多くは「暖房の産物」です。 チューリップ、スイートピー、ストック、ラナンキュラス、ガーベラ、バラ。冬から早春にかけて店に並ぶ花の多くは、暖めたハウスの中で咲いています。灯油はそのまま花のコストです。
  • コストが上がっても、すぐに花の値段が上がるわけではありません。 花の値段は市場の相場で決まるからです。だからこそ、生産者さんのところで苦しさが溜まり、限界を超えると「つくるのをやめる」という形で、ある日突然、花が市場から減ります。
  • 減ってから気づくのが、いちばん怖い。 つくり手が一度やめた品目は、翌年すぐには戻りません。球根の手配、ハウスの準備、何年もかけて磨いた技術。花は「来年からまた始めます」が簡単に言えない商売です。

以前、銀の高騰で切り花の品質保持剤が2〜5倍になった話を書きました。あの時も「花そのものではない部分のコストが、見えないところで上がっている」という話でした。今回の灯油も同じです。しかも花の市場は3年連続で縮んでいます。需要が細り、コストだけが上がる。生産者さんにとっては、本当にきつい冬になりそうです。

花屋としてできること、お客様にお願いしたいこと

嘆くだけでは何も変わりません。私なりに、できることを考えました。

  • 「安いから買う」ではなく「良いから買う」を貫く。 良い花に、きちんとした値段を払う。それが産地に続けてもらうための、いちばん確実な応援だと思っています。GORI STORE TOKYOは、これからも価格ではなく品質で選んだ花と植物を並べます。
  • 仕入れた花を、1本もムダにしない。 水揚げを丁寧にやり、売り場の温度を気にかけ、最後まで良い状態でお客様に渡す。燃料をかけて咲かせてもらった花を、店の都合で枯らすわけにはいきません。
  • お客様には、冬の花を長く楽しむコツをお伝えします。 暖房の風が直接当たる場所を避ける。花瓶の水は少なめにして毎日替える。夜は少し涼しい場所に移す。これだけで、花の持ちは目に見えて変わります。せっかくの一輪を、長く愛でていただきたいのです。
  • 「値上がりしたら、その理由をちゃんと伝える」。 もし冬の花の値段が動いたら、相場だから、ではなく、こういう背景があるからです、と説明できる花屋でいたい。それがこの記事を書いている理由でもあります。

ついでに、観葉植物のことも少しだけ。灯油高で暖房を控える冬は、植物の置き場所にも気を配ってください。サンスベリアやアガベのように乾燥地帯出身のズングリむっくりした仲間は、寒さには意外と弱い顔を持っています。夜の窓際は冷え込みますから、少し部屋の内側へ。水は控えめに。暖房を我慢する冬こそ、植物と人が同じ部屋で寄り添って過ごす季節だと、私は思っています。

よくある質問(FAQ)

Q. 灯油はどれくらい値上がりしたのですか?
日本経済新聞によると、国内スポット市場の指標である京浜地区の灯油価格は1リットル134円程度で、8月末比25%の上昇です。ガソリンや軽油はほぼ横ばいで、灯油だけが目立って上がっています。北海道のコープさっぽろの配達灯油は札幌地区で159円と過去最高を更新しました。

Q. なぜ灯油だけが高くなっているのですか?
灯油は例年、冬の需要期に輸入で調達を増やしますが、中東情勢で海外の灯油価格が高騰し、輸入品では採算が合わなくなっています。国内生産分だけでは足りなくなるという警戒が価格を押し上げています。8月末の在庫が前年比17%少ないことも背景にあります。

Q. 花の値段にはどう影響しますか?
チューリップやスイートピーなど冬から早春に出る花の多くは、灯油で暖めたハウスで育てられています。新潟のチューリップ産地では1本あたりの光熱費が約8円と、前年より2円ほど上がる見込みです。ただし花の価格は市場の相場で決まるため、すぐに店頭価格へ反映されるとは限りません。生産者がコストを吸収しきれず、生産をやめたり規模を縮小したりすることで、供給が減る形で影響が出る可能性があります。

Q. 冬に切り花を長持ちさせるコツは?
暖房の風が直接当たる場所を避け、花瓶の水は少なめにして毎日替えること。夜は涼しい場所に移すとさらに持ちがよくなります。水揚げの際は茎を斜めに切り戻してください。

冬の店先にチューリップが並ぶのは、誰かがハウスを一晩中暖め、1本2円の値上がりを飲み込みながら咲かせてくれているからです。その事実を知ったうえで花を手に取ると、同じ一輪がもっと愛おしくなる。私はそう信じて、今年の冬も産地に恥じない売り場をつくります。

今日も、あなたの一日に緑と花がありますように。

GORI

ブログに戻る

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。