人をつなげる都市農業──デトロイトの再生から、スーパーの屋上菜園まで

人をつなげる都市農業──デトロイトの再生から、スーパーの屋上菜園まで

こんにちは、GORIです。

「植物は、人をつなげる」。私が商売を通じてずっと信じてきたことを、真正面から裏付けてくれる論考に出会いました。日本経済新聞(2026年9月)に掲載された、都市農業研究の世界的な第一人者、トロントメトロポリタン大学講師ジョー・ナスール氏の寄稿です。今日はこの話を、花と緑を商売にする立場から書かせてください。

犯罪の温床だった空き地が、菜園になった──デトロイトの再生

米デトロイトは、自動車産業の衰退で人口流出が続き、治安の悪化に苦しんだ街です。その再生の原動力のひとつが、なんと農業でした。犯罪の温床になっていた空き家や空き地を、市民が自らの手でコミュニティー菜園に作り替え、農家が都市農業を始め、行政がそれを支援した。今では多くの市民が農業に関わり、いわば市民が都市の管理人になったのだとナスール氏は言います。

荒れた土地に緑が入ると、街の空気が変わる。これは私も造園の仕事で何度も見てきました。手入れされた植物があるだけで、その場所は「誰かが見ている場所」になる。欧米で1970年代から、空き地をしっかり管理すれば犯罪を防げるという「割れ窓理論」の考え方で都市型菜園が推進されてきたのも、同じ理屈です。

都市の菜園は「コミュニティーをつくる装置」

人はなぜ、わざわざ都市で農業をやるのか。戦時中は食料生産のため。今も食費の節約のため、レジャーのため、食の安全へのこだわりのためと、目的は実に多様です。しかし2000年代以降、より注目されているのは精神的・文化的な側面だとナスール氏は指摘します。

都市で暮らしていて、いちばん難しいのは「自分の居場所になるコミュニティーを見つけること」です。菜園は、人が日常的に集まり、栽培方法を教え合う場所。交流が自然に生まれます。住民の結びつきが強まれば、それは都市を動かす原動力になる。人々が自発的に参加するので、自治体は予算を抑えながら都市の機能を高められる。

トロントでは、都市型菜園が移民を地域社会に包摂する場になっているそうです。イタリア野菜のカーボロネロや特定のトウガラシが移民の手で持ち込まれ、その栽培と食の文化が地域に共有されていく。畑が、言葉より先に人をつなげているのです。

新型コロナウイルスの感染拡大時の話も印象的でした。コミュニティーづくりの場だった菜園が、集約的な食料生産の場に変わり、職を失った人々に食料が提供された。経済が再開すると、菜園はまたコミュニティーの装置に戻った。菜園は、その時々で役割を変えながら、都市のレジリエンス(回復力)を高めるのです。

商売としても面白い──SPINファーミングと屋上菜園

経営者として痺れたのは、ここからです。

カナダ・サスカチワン州生まれの「SPIN(スピン)ファーミング」というビジネスモデルがあります。小規模集約型農業。農家は地方に広大な農地を持つ代わりに、都市部の住宅の裏庭を借りるのです。体力的に庭の手入れが難しくなった人と契約を4〜5件結べば、十分な広さの農地になる。土地を貸した人は収穫物の一部を受け取り、農家は残りを売って利益を得る。庭の手入れ問題と、農地の確保問題を、ひとつの契約で同時に解決する。見事な仕組みです。

ニューヨークやモントリオールでは、スーパーの屋上菜園で作られる野菜が人気だそうです。遠くの農地からトラックで運ばれるのではなく、収穫直後の野菜がエレベーターで売り場に降りてくる。鮮度は最高、輸送コストは最小、そして消費者は自分の野菜がどこで育ったかを自分の目で知っている。食の安全性・鮮度・品質への関心が高まるなか、これ以上ない答えのひとつだと思います。

日本の首都圏でも、菜園は増えている

これは海の向こうだけの話ではありません。区画貸しの市民農園が全国で最も多いのは神奈川県で、2024年時点で720東京都の492が続き、埼玉県を含む1都2県の農園数はこの20年で1.7倍に増えました。

そして、都市の農地には防災の顔もあります。東京大学の特任教授は、都市の農地は避難場所になり、新鮮な食料の供給拠点にもなると指摘しています。豪雨災害や巨大地震がいつ起きてもおかしくない国で、非常時の都市の強さは、住民同士が支え合うコミュニティーの強さに比例する。住宅か農地かの二択ではなく、都市に農業を組み込んでいく工夫が求められているのです。

花屋の商売も、同じ土の上にある

読み終えて、私は自分の商売のことを考えました。

私たちは野菜ではなく、花と観葉植物を商っています。しかしやっていることの芯は同じです。オフィスに貸植木を入れれば、水やりの声かけから会話が生まれる。店先の一鉢が、常連さんとの立ち話のきっかけになる。マンションのエントランスの寄せ植えが、住民同士の挨拶を生む。植物には、人と人との間に立って口火を切ってくれる力がある。私はこれを商売を通じて何百回も見てきました。

デトロイトの空き地が菜園になって街が蘇ったのなら、東京のビルの谷間に置かれた一鉢にも、その何万分の一かの力は必ず宿っている。そう信じて、今日も植物を納品しに行きます。

よくある質問(FAQ)

Q. 都市農業にはどんな効果がありますか?
食料の生産・供給に加え、住民同士の交流を生みコミュニティーを形成する効果が注目されています。空き地の管理による治安改善(割れ窓理論)、移民の地域社会への包摂、災害時の避難場所・食料供給拠点としての防災機能も指摘されています。

Q. SPINファーミングとは何ですか?
カナダ・サスカチワン州で生まれた小規模集約型農業のビジネスモデルです。都市部の住宅の裏庭を4〜5件借りて農地とし、土地の提供者は収穫物の一部を受け取り、農家は残りを販売して利益を得ます。

Q. 日本の市民農園はどれくらい増えていますか?
区画貸しの市民農園は神奈川県が全国最多で2024年に720、次いで東京都が492。埼玉県を含む1都2県の農園数はこの20年で1.7倍に増えました。

Q. 都市の菜園は防災にも役立ちますか?
役立つと指摘されています。都市の農地は災害時の避難場所になり、新鮮な食料の供給拠点にもなります。日頃の菜園での交流で育まれたコミュニティーの結びつきは、非常時に住民同士が支え合う力=都市のレジリエンスの土台になります。

GORI

ブログに戻る

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。