こんにちは、GORIです。
「来る者は拒まず、去る者は追わず」。誰もが一度は聞いたことのある言葉です。でも、吉田松陰の言葉として読むと、この言葉には続きがありました。去る人を追いはしない。けれど、その人がどれだけ素敵な人だったかは、いつまでも忘れられない。私の机に置いてある『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(編訳・池田貴将)の159番「出会いと別れ」を読んで、思わず手が止まりました。花屋は毎日、出会いと別れの真ん中に立っている仕事だからです。
『覚悟の磨き方』159「出会いと別れ」には何が書かれているのか?
本の中身を、私なりの言葉でまとめます(原文の引き写しではなく要約です)。
- 来る人は拒まない:その人がこれまでどれだけ失敗してきたか、どんな性格だったか。そんな過去は問わない。
- 去る人は追わない:離れていく人を、無理に引き止めはしない。
- それでも、忘れない:去った人がどれだけ素敵な人だったかは、ずっと心に残っている。
前半だけなら、さっぱりした人付き合いの心得です。私がしびれたのは後半でした。「追わない」と「忘れない」は、両立する。むしろ、本気で大切に思っていた相手だからこそ、追わずに送り出せるのだと思います。
「来る者は拒まず、去る者は追わず」はもともと誰の言葉?
この言葉の元をたどると、中国の古典『孟子』に行き着きます。孟子が弟子の受け入れ方について語った一節で、日本では「往く者は追わず、来る者は拒まず」の形でも知られています。
吉田松陰は、幕末の長州藩(今の山口県)の思想家で、松下村塾で高杉晋作や伊藤博文らを教えた人物です。松陰は野山獄という牢に入れられていたとき、同じ獄の囚人たちに『孟子』を講義し、その記録は『講孟余話』として残っています。牢の中で、身分も罪も問わずに学びを分け合った人です。「過去は問わない」という言葉に重みがあるのは、松陰自身がそれをやった人だからだと、私は思っています。
なぜ花屋は「出会いと別れ」の現場なのか?
花が選ばれる場面を思い浮かべてみてください。
- 出会いの花:開店祝い、就任祝い、結婚式、出産祝い、新しい部屋に迎える観葉植物。
- 別れの花:送別、退職、卒業、転勤、そしてお悔やみ。
花屋の作業台の上では、同じ日に「おめでとう」と「ありがとう、お元気で」が並んでいます。特に10月は、下期の始まりで人事異動が多い時期です。「お世話になった上司が異動するので」と送別の花束を選びに来られる方も増えます。
送別の花は、相手を引き止めるための花ではありません。追わずに送り出す。でも、あなたのことは忘れません、と伝える花です。松陰の言う「去る者は追わず、でも忘れない」を、言葉ではなく形にしたものが送別の花束なのだと、この本を読んで気づきました。
植物を枯らしてしまった過去は、問わない
「来る者は拒まず」も、花屋の仕事にそのまま重なります。
店に来られるお客様の中には、「前に何度も枯らしてしまって……」と申し訳なさそうに話される方が少なくありません。私はそういう方こそ大歓迎です。過去に何鉢枯らしたかは、まったく問題ではありません。大事なのは、もう一度植物と暮らしてみようと思って、店に来てくださったこと。日当たり、水やりの癖、部屋の温度を一緒に確かめて、今度こそ長く付き合える一鉢を選ぶ。それが花屋の役目です。
そして店の植物にも、別れがあります。GORI STORE TOKYOには、同じ形が二つとない一点物の植物があります。ズングリむっくりの幹、ねじれた枝、ほかにない樹形。売り場で毎日見てきた一鉢が、お客様と一緒に店を出ていく瞬間は、正直ちょっとさみしい。でも追いません。新しい家で、新しい持ち主と生きていくのがその植物の幸せだからです。そして、その一鉢のことはちゃんと覚えています。
「追わないけど、忘れない」を経営に置き換えると
この一節から、私が受け取った三つの原則です。
1. 入り口は広く。過去は問わない。
植物を枯らした経験も、花に詳しくないことも、気にしなくていい。初めての方ほど、気軽に来てもらえる店でありたい。
2. 離れていく人を、責めない。引き止めない。
お客様も、一緒に働いた仲間も、それぞれの事情で離れていくことがある。そのとき、気持ちよく送り出せる店でありたい。
3. でも、忘れない。
去った人がまた戻ってきたとき、「お久しぶりです」と自然に迎えられること。それが、追わない代わりに私たちができるいちばんの誠実さだと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q. 『覚悟の磨き方』はどんな本ですか?
幕末の思想家・吉田松陰の言葉を、池田貴将さんが現代の言葉に「超訳」して編んだ本です。テーマごとに短い言葉が番号つきで並んでいて、どこからでも読めます。帯には「55万部突破」とありました。
Q. 「来る者は拒まず、去る者は追わず」の出典は?
中国の古典『孟子』の一節がもとになっています。「往く者は追わず、来る者は拒まず」という形でも知られています。吉田松陰は獄中で『孟子』を講義し、その記録が『講孟余話』として残っています。
Q. 「去る者は追わず」は冷たい考え方ではないのですか?
『覚悟の磨き方』の159「出会いと別れ」では、去る人を追わない一方で、その人がどれだけ素敵だったかは忘れられない、という気持ちも書かれています。突き放すのではなく、相手の選んだ道を尊重して送り出す、という考え方だと私は受け取りました。
Q. 異動や退職の送別には、どんな花を贈ればいいですか?
手渡しして持ち帰ってもらうなら、電車でも持ちやすいサイズの花束がおすすめです。相手の好きな色や、一緒に過ごした季節の花を入れると、思い出に残る贈り物になります。新しい職場に飾れる小さな観葉植物を選ぶのも一つの方法です。迷ったら、店頭で相手の方のことを聞かせてください。一緒に選びます。
Q. 植物を何度も枯らしてしまいました。それでも育てられますか?
大丈夫です。枯れてしまう原因の多くは、水のやりすぎや置き場所の明るさなど、植物と環境の相性です。お部屋の日当たりや水やりの習慣を伺えば、合う植物を一緒に探せます。過去は問いません。
来る人を拒まず、去る人を追わず、それでも忘れない。花を手渡すとき、私はいつもこの三つを両手に持っていたいと思います。出会いの花も、別れの花も、どちらも相手を大切に思う気持ちから生まれるものですから。
10月、新しい場所へ向かうあなたにも、誰かを送り出すあなたにも、花が寄り添いますように。
GORI