こんにちは、GORIです。
山梨と聞いて、何を思い浮かべますか。ぶどう、桃、ワイン、富士山——たいていはそのあたりだと思います。その山梨で、いま切り花の産地づくりが始まっています。花き卸最大手の大田花きが山梨県と連携協定を結び、山中湖村ではダリアの本格出荷がスタート。市場からの評価も得つつあると報じられました。畑がひとつ、花の産地に変わっていく。花屋にとって、これほどわくわくする話はありません。
なぜ「果樹王国」の山梨で、花なのか?
数字を見ると、山梨における花の立ち位置がよく分かります。県によると、2024年の県内の花き生産額は約37億円。農業生産額に占める比率はわずか3%です。いっぽう果樹は約770億円で、全体の6割を占めます。ぶどうと桃の県、という印象はまったく正しいわけです。
では、なぜ花なのか。理由は土地の条件にあります。
- 高冷地は夜温が低い。 花は夜の気温が下がるほど、色が締まり、花持ちが良くなります。標高の高い山梨は、まさに花向きの気候です。
- 首都圏に近い。 産地から市場まで距離が短ければ、それだけ鮮度の高い状態で花を届けられます。
夜が涼しくて、東京が近い。花にとってこれは、かなり恵まれた条件です。この強みに着目した大田花きと山梨県は、2024年1月に連携協定を締結しました。大田花きが都道府県と連携協定を結ぶのは、これが初めてだそうです。県内で新たに花きを作る生産者を募り、需要のある品種や栽培技術を助言して産地化を目指す——そういう中身の協定です。
山中湖村のダリアは、どこまで来たのか?
この取り組みで、実際に市場出荷までこぎ着けたのが山中湖村のダリアです。
花きを新しい特産品にしたい村が、村内の圃場(ほじょ)の運営を委託する形で、2024年から栽培を開始。花き生産に関心のある10人ほどが携わっていますが、ほとんどが兼業で、本業の合間に作業を進めているといいます。圃場責任者を務める諸角雄太さん(47)も、もともとは農家ではなく個人事業主でした。協定に関わった知人に声をかけられ、ダリアの美しさに魅了され、今年からダリア栽培を専業にしたのだそうです。「県内で一番良いダリアを作れるようになりたい」——その言葉に、私は完全にやられました。
数字にも勢いがあります。
- 2025年:大田花きへ約1万本を出荷
- 2026年(今年):約70アールで栽培し、4万本ほどの出荷になる見通し
1万本から4万本へ。しかも大田花き側は「山中湖のダリアは発色が良く、客から評価されている」と話しているといいます。市場が「良い」と言う産地は伸びます。これは私の実感としても、間違いありません。
なぜ「発色が良い」花が生まれるのか?
ダリアは、暑さがあまり得意ではない花です。夏の高温が続くと花色がぼやけ、花持ちも落ちます。逆に夜がしっかり冷える土地では、花びらの色素がのり、輪郭のはっきりした濃い色に仕上がります。山中湖村は富士山麓の標高の高い土地。ダリアにとっては、なかなかの好条件です。
「地の利を生かす」という言葉がありますが、農業においてそれは決して精神論ではなく、夜の気温という具体的な数字の話なのだと、この記事を読んで改めて思いました。
この先、山梨はどうなる?
栽培は北杜市など6市町村に広がり、ダリアのほか、アジサイ科のノリウツギなども作られているそうです。さらに来年は、農林水産省の補助金を活用して県内にハウスを建て、スターチスの栽培を検討中とのこと。
これがなかなか戦略的で、うなってしまいました。スターチスは6月に暖地と秋夏産地の端境期(はざかいき)があり、大田花きはそこを埋める中間産地として山梨から出荷できると見ている、というのです。端境期=どこの産地からも花が来にくい時期。そこに出せる産地は、市場にとって非常にありがたい存在になります。「余っている時期に作る」のではなく「足りない時期に作る」。産地づくりのお手本のような話です。
課題も正直に語られています。県の果樹園芸振興課は「収益が出るようにして、担い手を広げるのが今後の課題」と説明。「まずは兼業でも花きを栽培する人が増えるようにしていく」としています。大田花きも「課題はあるが、品目も担い手も増えれば、山梨は花きの一大産地になるポテンシャルがある」と将来に期待を寄せています。
花屋GORIが、この話に熱くなる理由
私は花を売る側の人間です。だからこそ、産地が生まれる瞬間の話には胸が熱くなります。
花の値段が上がった、量が減った——最近そういう話ばかりを書いてきました。作り手の高齢化、資材の高騰、球根の値上がり。花き産業の課題は、正直たくさんあります。そんななかで、農家ではなかった人が花に惚れ込み、専業になり、市場が「発色が良い」と評価する。これは、下を向いた話ばかりの業界にとって、まぎれもない明るいニュースです。
そして忘れてはいけないのは、ここに至るまでに2年かかっているということ。協定が2024年1月、栽培開始が同年、初出荷が2025年に1万本、今年4万本。一足飛びではありません。畑を耕して、苗を植えて、失敗して、直して。花の産地は、そうやって時間をかけて生まれます。タイムイズマネーが口ぐせの私ですが、こればかりは短縮できない時間です。だからこそ、その時間に敬意を払いたいと思います。
秋はダリアが最高に美しい季節です。もし花屋の店先で、はっと目を引く発色のダリアに出会ったら——それは山中湖村から来た一本かもしれません。
よくある質問(FAQ)
Q. 大田花きと山梨県は何をしているのですか?
花き卸最大手の大田花きと山梨県が2024年1月に連携協定を締結し、県内の切り花産地化を進めています。大田花きが都道府県と連携協定を結ぶのはこれが初めてです。県内で新たに花きを作る生産者を募り、需要のある品種や栽培技術を助言する内容です。
Q. 山中湖村のダリアはどのくらい出荷されていますか?
2024年に栽培を開始し、2025年には大田花きへ約1万本を出荷。2026年は約70アールで栽培し、4万本ほどの出荷になる見通しです。大田花きは「発色が良く、客から評価されている」としています。
Q. なぜ山梨は花の栽培に向いているのですか?
高冷地は夜温が低く、花の色が締まり花持ちが良くなるためです。加えて首都圏に近く、鮮度の良い状態で市場へ届けられる利点があります。県内の花き生産額は2024年で約37億円(農業生産額の3%)と、果樹の約770億円(6割)に比べればまだ小さい規模です。
Q. ダリア以外に何が作られていますか?
栽培は北杜市など6市町村に広がり、ダリアのほかアジサイ科のノリウツギなどが作られています。来年は農林水産省の補助金を活用してハウスを建て、スターチスの栽培も検討されています。6月の端境期を埋める中間産地としての出荷が期待されています。
新しい産地が生まれる話は、何度聞いてもいいものです。今日も、あなたの一日に緑と花がありますように。
GORI